東京で水爆が爆発、のリアル〜松本清張『神と野獣の日』(角川文庫)
松本清張としては珍しく、ある種のSF小説である。
Z国から誤射された核弾頭をつけたミサイルが東京に向かって飛んでいる。残された時間はわずか41分間。そのとき、日本国民はどう行動したのか?
『神と野獣の日』松本清張(角川文庫)
これは、おもしろい。
日本でも、有事法制だとか国民保護法制だとか、戦争を前提とした国家体制づくりが現実のものとなった。でも、実際の戦争を体験した国民はほとんどいない。
水爆が東京の真ん中で炸裂すると、おそらく関東全域が壊滅するだろう。
各自治体が策定している国民保護計画では、当然、核爆発があった場合の対処も含まれているが、それがどこまでリアリティーがあるのか、かなり疑問だ。
そもそも、核攻撃が実際にあった場合、国民保護法制など通用するのだろうか。国は、一応、核攻撃に対する対処方針を持っていて、自治体もそれに従って計画を策定している。
が、被爆地・長崎市の故・伊藤一長市長は、こんなことを発言していたことがある。
「国が策定した基本指針においては、核兵器攻撃からの対処方法が定められておりますが、核兵器が再び使用されれば、国民保護計画に定められる措置が不可能となる大きな被害が生じることは、被爆の惨状を経験した長崎市の市長として十分に認識をいたしております。このため、核兵器攻撃による具体的な被害想定及びその対応策を国の責任において示すよう、2度にわたり国へ要望をいたしましたが、現在まで、残念ながら明確な回答は得られていない状況にあります。」
2006年12月、伊藤市長の議会答弁だ。
つまり、こういうことだ。
核兵器攻撃なんか現実になったら、国民保護計画なんて役に立たない。国が策定した基本指針は、あまりにも被爆の実情を無視していて、核兵器の恐ろしさを誤解される恐れがある。本来は、核兵器を使わせないためにはどうしたらいいのか、国の責任はそこにある。伊藤市長は、生前、こんな主張をしていた。
『神と野獣の日』が出版されたのは、昭和48年。まだ当時は、安保体制に対する国民のコンセンサスすら不安定な時代で、有事だとか国民保護という時代ではなかった。
が、この物語が描いた「有事」は、あまりにもリアリティーがありすぎて恐い。
物語では、総理大臣が日本国民で誰よりも早く東京を脱出する。総理が最も気に病むのは、国民の生命ではなく、次の選挙だ。被爆後の不安は、国民の生命ではなく、反体制の思想を持つ者たちの動乱だ。
国民の共に死ぬと豪語した防衛省のトップは、いつの間にやら東京を抜け出している。
そんな救いようのない首都・東京が、核爆発のキノコ雲の下に沈むまでの短い時間をリアルに描き出している。
自分ならどうするか、考えてみた。
東京の中心部で水爆が爆発すると、おそらく鎌倉も大きな被害を受けるだろう。この小説では、箱根の山が、壊滅地帯の境目になるという想定になっているけど、案外そうかもしれないな。
天気の移り変わりを見ると分かる。西からやってきた雲は、箱根でせき止められる。水爆の爆風も、おそらく、そこが壁になるんだろう。
それでも、死の灰は、風の流れで関東以外にも飛散することは間違いない。
まずは、逃げるだろうな。
自転車でひたすら西に向かう。
生きようとするだろう。
東京にいたら・・・大江戸線のトンネルに逃げ込むかな?
いや、みんな同じ事を考えて、満杯になるか。小説では、地下に潜った人たちは悲惨な結末を迎えている。
おそらく、それでも、西に向かうだろう。
生き残るかどうか分からないけど、わずかな可能性を探すだろう。
人間は、そーゆー動物じゃないだろうか。
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