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2007年8月18日 (土)

【秋庭系東京地下物語'07《隠蔽》】(第4話)隠された中村順平「東京近郊」の秘密・後編

Photoやはり実物を見ないと読者も寝覚めが悪かろうと思った。オイラは、悲しいかな、スキャナを持っていないので、手元にあるコピーをカメラで撮影するという前近代的な作業を行っている。そのため写りは悪いが、逆にそれは著作権を配慮(してない、してない)ってことにしておこう(笑)

左の画像が、ル・コルビュジエ「輝く都市」の平面図である。

前回掲載した中村順平の「東京近郊」と見比べていただきたい。

一目瞭然、まったく別物だということがお分かりだろうか。中村順平の帝都復興都市プランは、地下の都市伝説の権威・秋庭俊先生が言うような「輝く東京」ではなかったのだ。

どこかで内務省の都市計画を見たのだろう。中村は、突然、一人で東京の都市計画をまとめると、一冊の本を出版した。『東京の都市計画を如何にすべき乎』である。(『帝都東京・隠された地下網の秘密2』新潮文庫、P165)

陸軍と内務省が参加していることからも、これが当時の政府案となっていたことがわかる。(『同』P168)

今回は、中村順平が関東大震災を契機にフランス留学から帰国し、師匠の導きによって帝都復興の都市計画案を立案するまでの軌跡を追う。

1923年9月1日、関東大震災により東京は壊滅した。中村は、その悲報をフランスで聞く。すぐに建築士の師匠である中條精一郎から「日本に帰れ」との連絡が入った。パリで充実した毎日を過ごしていた中村は躊躇するが、4ヶ月後の翌年1月に帰国の途に就く。

日本に帰国した中村を待ち受けていたのは、焦土と化した東京と、後藤新平による帝都復興の挫折だった。

関東大震災の翌日、後藤新平を内相に起用した山本権兵衛内閣が発足。内務大臣後藤新平は9月6日に、東京市長在任中の8億円の都市計画案を参考にした帝都復興案を閣議に提示する。後藤は独立した復興機関・復興院を設立して自ら総裁に就任すると陣頭に立って計画を進めようとするが、区画整理に反対する地主の反発や、後藤の失脚を狙う議員たちの陰謀により政争に巻き込まれ、復興事業は大幅に縮小された。

議会の修正により大幅に縮小された復興案の実施が決まった頃、中村は神戸港に上陸していた。

東京駅で中村を迎えたのは、師匠の中條だった。

中村の生涯を描いた1冊の本がある。

『情念の幾何学 形象の作家中村順平の生涯』(網戸武夫著、建築知識)である。以下は、同書からの引用である。

あの夜、中條と応接間の暖炉を囲んでの話が、中條の希いを離れ、現世、現実を離れ、一つの提案ー都市構想という次元に抽象されると、弟子中村の眼光はあやしくも燃えさかるのである。後藤案が縮小案に格下げされ、見るも無惨な市区改正案に終った経緯に及ぶと、いまは師匠の熱い眼差しに肉迫し、膝乗り出して時の経つのを忘れ、お互いの鋭い感性から二人の情熱は相乗されていく。やがて日本の文化に論は及び、国の将来の危惧に触れれば、弟子の鬱屈は一遍に消え去り、軒昂たる自我が吹き上がる。心の暗闇は消霧して忽ち芸心燃え上る修羅と化していくのである。この時師匠は間髪も入れず、東京の都市を即刻計画せよと命令する。一週間が期限だ。場所と経費は提供しよう。

翌日、中條は中村を車に同乗させ、1日がかりで東京中を駆け回り、自ら解説役を買って出た。中村は、中條の仲介で赤坂の乃木神社に近いロシア人フータレフ夫人の家の一室を借りて、製図板を持ち込んで製作に没頭した。いよいよ本仕上げに入ると、画家である友人のアトリエが提供され、計画案の鳥瞰図もここで仕上げられたという。

こうして、「東京近郊」は完成した。

元になる航空写真を撮影したのは、当時、発足したばかりの陸軍航空部。第一次世界大戦の分捕品だったドイツ製のカメラが使われたという。(『帝都東京・隠された地下網の秘密2』新潮文庫、P34)

この「東京近郊」の製作には、陸地測量部、航空部、内務省が加わっている。創設されてまもない航空部は、このとき数千枚に及ぶ航空写真を撮影し、それを合成して地図がつくられたのだという。(『同』P168)

どうだろうか?「東京近郊」を製作するために数千枚の航空写真を撮影したなんて、妄想できるだろうか。中條がやれと命令して、中條が期限まで切っている。そこに陸軍がひょこひょこと現れて、「この航空写真使ってくださいな」と。1週間しかないのに数千枚の航空写真を撮影するとな。なんてことはない、中村は普通に存在している地図を使って、「東京近郊」を作成したのだ。当時内務省や東京市が作成されていた帝都復興計画もかなり正確な地図を元にしている。中村が都市計画案を作成するのに、わざわざ陸軍航空部がしゃしゃり出てくる必要なんてないのだよ。

この中村の帝都復興プランは、中條の主催する国民美術協会の帝都復興展に出品され、さらに『東京の都市計画を如何にすべき乎』(洪洋社)という小冊子で自らの計画と考え方を解説した。この小冊子は、内閣、枢密院、貴衆両院議員、学会、新聞社などに贈呈されている。

いま、それがどこに何冊残っているのかはわからない。(『帝都東京・隠された地下網の秘密2』新潮文庫、P165)

分からないとぼやいていないで調べよう、秋庭先生。あんたジャーナリストなんだから。

オイラが調べたところでは、日本で4カ所所蔵している図書館がある。

九州大学附属図書館・理系図書館

神戸市立中央図書館

東京大学総合図書館

国立国会図書館

・・・一般市民でも気軽に利用できるのは、西なら神戸市立中央図書館、東なら国立国会図書館だろうか。ただし国会図書館ではマイクロフィッシュになる。他の2館についても、大学関係者以外の利用を受け付けている。

では、その後中村の復興プランはどうなったのか。

以下も『情念の幾何学』からの引用である。

しかし大正という時代のこの時期、その創意と天才的尺度が理解されるには、文化の土壌は余りにも貧しく、政治の混迷と経済の不調から、国家の前途は厳しい転機に立たされていた。このような風景の中では、建築は実利と便宜に奉仕する技術以上のものではなく、また異国からの新風を追うに忙しい観念の遊びの中で、都市計画という命題は建築界の視野に納まるには、余りにも巨大で異質に過ぎた。したがって、中村の都市計画エスキスは絵空事と映ってか、建築の近代史の上にその全貌については一片の記録さえ残されていはいない。

結局、後藤新平の帝都復興計画が縮小されたのと同様、中村の都市計画案も人々から忘れられていくのだ。

ところで、師匠中條は何故、中村を日本に帰らせ、復興プランをつくらせたのか。

中條精一郎は、父・政恒の福島県令時代に政恒の書生だった後藤新平と出会った。後藤は当初医者を目指していたが、行政・政治の世界に身を投じる。中條は建築家として、後藤は政治家として、お互いの交流が続いていたのだ。

ここからはオイラの妄想である。

中條は震災が起きてすぐに中村に帰国を命じている。東京が焦土と化し都市の大変革のチャンスを迎えているとき、盟友である後藤が内務大臣として帝都復興に身を投じることになった。建築家・中條としては弟子の中村に期するものがあったに違いない。中村が帰国したのは翌年1月だが、すでに帝都復興は縮小され、見るも無惨な姿である。内務省の小さな都市計画に対して、確固とした帝都東京の将来像をぶつけられるのは、フランス政府公認建築士の称号を得た中村しかいない。

こうして中村と後藤は中條を介して、奇妙なつながりができるのだ。

そして、もう1つ、中村とコルビュジエとの接点もあった。ル・コルビュジエが中村順平を知っていたというエピソードがある。

中村の卒業制作は帰国後の1924年春のサロンで銀賞を受けた。ル・コルビュジエはこの中村の作品を見たらしい。

『情念の幾何学』からの引用である。

後年、巴里に渡ってコルビュジエの門を叩いた坂倉準三は、その初対面の折、エスプリ・ジャポネを謳い上げた中村の作品のことを聞かされる。コルビュジエは賞賛の言葉を惜しもうとしなかったとのことである。

ル・コルビュジエ、中村順平、後藤新平、この3人は直接に言葉を交わしたことはないが、奇妙な点と線でつながっていたのである。

 

次回は、秋庭先生がいじったもうひとりの偉大なる建築家・内田祥三の「大同の都市計画」に迫る。

(つづく)

【秋庭系東京地下物語'07《隠蔽》】

(第1話)隠されたル・コルビュジエ「輝く都市」の秘密・前編

(第2話)隠されたル・コルビュジエ「輝く都市」の秘密・後編

(第3話)隠された中村順平「東京近郊」の秘密・前編

(第4話)隠された中村順平「東京近郊」の秘密・後編

(第5話)隠された内田祥三「大同の都市計画」の秘密

(第6話)隠された後藤新平「帝都復興」の秘密・その1

(第7話)隠された後藤新平「帝都復興」の秘密・その2

                   ・・・(補足

(最終話)隠された後藤新平「帝都復興」の秘密・その3

(関連書籍)

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コメント

スキャナー無しと言うことは、引用文は手入力?
OCR使ってる私ですら、旧漢字の処理に四苦八苦ですのに。
m(_ _)mオソレイリヤシタ

東京の地下を如何にすべき乎
じゃなかった「東京の都市計画を如何にすべき乎」
私は二年前にようやっと、神戸市立中央図書館で巡り会いました。
驚いたことに、神戸市民なら貸し出し可だったんですよ。その時は。
シマショウだっけ、自分の都合で、著作権の解釈変える、変格推理作家擬き。
アレも、ちゃんと捜せば、秋庭さんに秋波を送らずに済み、帝都何チャラも、もう少し、バイアスの掛かってない、一寸はましなモノになったんじゃなかろうかと、あの日、大日本雄弁会にクレームの電話を掛けながら思った次第。

投稿: 陸壱玖 | 2007年8月18日 (土) 16時46分

はい。バリバリ、キーボードを叩いて引用文と格闘しております(笑)旧漢字には苦労しますが、ATOKという漢字変換ソフトには手書き文字入力という機能がありますから、読めない(恥)旧漢字でも一発変換(爆)

その帝都なんたらって懐かしいですねー。秋庭さん、まるで自分しか持っていないかのような優越感に浸っていたんでしょうか。てか、たぶん秋庭さんも国会図書館で手に入れたんでしょうから、マイクロフィッシュを操りながら・・・、「図書館でコピーできますよ」って島田なんたらさんに教えてあげればいいのに。えっへん、こんな極秘計画持ってるぞって胸をはりたかったんでしょうね、きっと。

投稿: mori-chi | 2007年8月18日 (土) 17時49分

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