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2007年8月16日 (木)

【秋庭系東京地下物語'07《隠蔽》】(第2話)隠されたル・コルビュジエ「輝く都市」の秘密・後編

Sn380032日本で唯一、ル・コルビュジエの設計した建築物が、上野公園にある。

国立西洋美術館である。

この美術館を設計するために、コルビュジエはたった1度日本を訪れ、現地を視察した。コルビュジエが基本設計を行うと、実施設計は3人の弟子が行ったそうだ。

実際に行ってみた。

ご覧のようにあまり大きな建物ではない。1階は壁がガラス張りで、丸い柱が規則正しく並んでいる。開放感あふれる空間。2階は壁がコンクリートになり、規則正しい丸い柱や開放感のある空間は同じ。典型的なコルビュジエの設計だと分かる。

ピロティというのは、1階部分を柱だけにして、建物を2階へと持ち上げている構造。例えば、丹下健三が設計した広島の平和記念資料館が典型的だ。丹下健三も、コルビュジエの思想を受け継いでいる建築家の1人なのだ。

この西洋美術館は、1階部分が外部空間というわけではないが、ガラス張りで建物の向こうまで透けて見えるところが、いかにもコルビュジエらしい。

こういう思想は、建築物だけではなくて、都市計画という壮大な世界にも応用されている。

第2話は、ル・コルビュジエが描いた「300万人のための現代都市」に迫る。

Cell_100_2これも、ル・コルビュジエが設計した建物。1階部分が柱だけになっているのが分かると思う。この設計があるからこそ、コルビュジエの都市計画は、自由な発想ができるのだ。

例えば、前回紹介した「輝く都市」では、空襲で有毒ガスが巻かれたときに風が吹いてガスが拡散するという話をしたけど、コルビュジエが設計した都市の建物はすべてこうやって1階がピロティ形式になっていて、風が吹き抜ける構造なのだ。

それに、こういう空間が1階にあると、今の都市にもありがちな道路を四角形に区切って、四角形の真ん中に建物を建てるという概念が崩されて、人は自由に建物の下を通り抜ける。なので、コルビュジエの都市計画には、自動車が高架で分離されていて人間は自由に1階の空間を行き来するという特徴がある。

さて、今日も、地下の都市伝説の権威・秋庭俊先生にご登場いただくこととしよう。

『帝都東京・隠された地下網の秘密2』からの引用。

地上二階、地下三階のコンクリートの建物、地下鉄の駅がその中心にあった。これを見たパリ市民は初め一様に言葉を失い、その後、ある種の茫然自失に陥ったといわれている。(P160)

いかにもって書き方だが、「パリ市民が茫然自失に陥った」と語ったのはル・コルビュジエ本人である。

1922年、パリで開催されたサロン・ドートンヌ展に出品されたのが、「300万人のための現代都市」で、100平方メートルもある模型も含まれていたという。ル・コルビュジエ本人によると、「ある種の茫然自失をもって迎えられ、その驚きからある人々は怒り、ある人々は熱狂した」という。

この都市計画は、「輝く都市」と同様長方形で、ど真ん中に十字型の摩天楼が林立している。自動車道路は「ピロティ」によって持ち上げられ、歩道は完全に分離されている。「輝く都市」では住居が街の中心部にあったが、この計画では商業地域の周囲を取り囲んでいる。この摩天楼は60階建て。『隠された地下網2』158ページと159ページにあるスケッチは、この摩天楼を自動車専用道路から眺めているものだ。

都心部には4つの摩天楼に囲まれた多層輸送複合施設がある。

一番上は飛行場。その下は中2階で高速道路がある。地上には鉄道や切符売場の入口がある。地下へもぐると、最初のレベルに地下鉄があり、その下には地方鉄道、郊外鉄道がある。さらにその下は、長距離列車用の駅である。

この地下鉄の駅は、B1、B2、B3の三層に分かれている。B1のホームには既存の市内地下鉄、B2には市外までの郊外地下鉄、そしてB3には新幹線地下鉄とでもいうべき路線が計画されていた。(P160)

コルビュジエの都市計画は、「既存」などというものは想定していない。彼は既存市街地を再開発するという発想はほとんどなく、すべてぶっ壊すのだ。1922年にどうして新幹線が登場するのか謎だが、単純に長距離列車の発着を想定しているだけで、新幹線はもちろん、TGVは登場しない。

このときのコルビュジエの都市計画では、こうした地下道群の下をB2としている。(P160)

コルビュジエにはそういう都市計画は存在しない。都市計画自体、地下道群をまったく想定しておらず、B2には市外に出る郊外鉄道が走っているだけである。

まあ、実物を見てみれば分かることだが、「300万人のための現代都市」は、パリを想定した都市計画ではあったが、既存のパリの都市の配置をまったく無視して構想されている。そこには凱旋門もエッフェル塔もないし、パリの歴史的な町並みも存在しない。地下だけ既存のパリを残すなんて器用なことはできない。コルビュジエは、昔ながらの景観を残そうとか、既存の町並みを生かそうとか、そんな古典的なロマンティストではないのだ。

秋庭先生は、自著の中で「輝く都市」と「300万人のための現代都市」をすり替えた。さらに、すり替えた「300万人のための現代都市」ですら勝手な妄想を張り巡らせて、真実を隠蔽している。

「300万人のための現代都市」と「輝く都市」は、ピロティというコルビュジエ独特の方式を都市計画に応用している点、都市全体が直線で区切られている点では共通している。前提となっている都市は、前者がパリで、後者がモスクワである。両者が異なる点は、「300万人のための現代都市」が郊外の「田園都市」(衛星都市)を計画していたのに対し、「輝く都市」では人々はすべて都市の中心に住み、田園都市が存在しない。

これらの特徴をよく理解しておくと、秋庭本の嘘を簡単に見破ることができる。

そして何より、大切なこと。

「300万人のための現代都市」は、1922年に発表された。

「輝く都市」は、1930年に発表され、1935年に本として出版された。

関東大震災が起きたのは、1923年9月1日である。

「輝く都市」が、日本の帝都復興に結びついたとする秋庭本のストーリーがどれだけデタラメなのか、これで分かるはずである。何故秋庭先生は、「300万人のための現代都市」と「輝く都市」をすり替えなければならなかったのかという回答も、これで一目瞭然である。

最後に、1935年出版の『輝く都市』は何故邦訳されていないのだろうか?

秋庭先生も紹介していた、東秀紀氏『荷風とル・コルビュジエのパリ』(新潮社)の該当部分を引用しておこう。

 余談になるが、コルビュジエの主要著作のほとんどが翻訳されているわが国において、この最も重要な書物は、なぜか欠落している。彼の日本人の弟子の一人坂倉準三が、『都市計画の方法』(一九四七)という本を、『輝く都市』という題で翻訳しているからだが、奇妙なことだと言わざるを得ない。
 あるいは、一九三五年出版の著書が持っている「毒」が、戦後多くの信奉者を生んでいた日本において、逆に誤解を生む種になることを、弟子たちは、とりわけ、師を最も愛した坂倉は、恐れたのであろうか。(P167-168)

東氏は、「毒」が具体的に何であるかは書いていない。

これはあくまでオイラの妄想だが、「輝く都市」が、社会主義国・ソ連のモスクワで当局から依頼された都市計画である、という点が、「毒」の正体ではないかと妄想している。少なくとも「すり替えた」というのは無茶で、ル・コルビュジエ自身が了解しているからこそ、日本で出版されたのである。

コルビュジエの都市計画は、既存の町並みや秩序をぶちこわすだけのかなり強力な中央集権的なコントロールがなければ実現できない。コルビュジエは、決して共産主義者ではないが、自らのアイデアを実現させるためには、共産主義者にもファシストにも提案を投げかけた。皮肉なことに、彼の都市計画が現実になったことはほとんどなく、母国フランスにおいては生前、ほとんど無視され続けている。

もしも、オイラの妄想が当たっているなら、もういいではないかと、弟子の皆さんに伝えたいと思う。今、若い建築家たちにコルビュジエの息吹を伝えることは、これからの日本の都市を築いていく上で、とても重要ではないだろうか。夢を忘れて、偽りの「美しい国」を追い求めている日本だからこそ、コルビュジエが求められているような気がする。

「私も、もういいかと思うんですけどね」

そんな弟子たちの微笑が聞こえてきそうな気がする。

「輝く都市」は未だ紙の上に書かれている。しかし、技術的な仕事は、図や数式に書き表された時、既に実現に向かっている。観察者や傍観者、無能者は、実現の結果が確実なものとなることを要求しているが、「輝く都市」は、この世を覆っている暗闇の苦悩をぬぐい去り、紙の上で実現を待ち続けている。われわれは、「権力」からのゴー・サインを待っている。(『輝く都市』ル・コルビュジエ)

 

さて、この「300万人のための現代都市」をパリで目撃し、自ら帝都復興の提案へと生かした人物がいる。

中村順平である。

次回は、中村順平が提案した帝都復興プランに迫る。

(つづく)

【秋庭系東京地下物語'07《隠蔽》】

(第1話)隠されたル・コルビュジエ「輝く都市」の秘密・前編

(第2話)隠されたル・コルビュジエ「輝く都市」の秘密・後編

(第3話)隠された中村順平「東京近郊」の秘密・前編

(第4話)隠された中村順平「東京近郊」の秘密・後編

(第5話)隠された内田祥三「大同の都市計画」の秘密

(第6話)隠された後藤新平「帝都復興」の秘密・その1

(第7話)隠された後藤新平「帝都復興」の秘密・その2

                   ・・・(補足

(最終話)隠された後藤新平「帝都復興」の秘密・その3

(関連サイト)

国立西洋美術館

(関連書籍)

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