【秋庭系東京地下物語2007】(第4話)区界の地下に流れる「川」の妄想
東京メトロ千代田線の根津駅からしばらく歩くと、右へ左へと道がうねっている通りに出る。地図を見ると分かりやすい。その曲がりくねった道路は、文京区と台東区の境目にある。左の画像は、左側が、台東区谷中である。今週日曜日に投票がある区長選・区議選の掲示板がある。右側が、文京区千駄木である。
不思議なことに、文京区と台東区の区界は、千代田線が地下に走る不忍通ではない。その奥にある曲がりくねった細い道路なのである。
この道には、かつて川が流れていた。
藍染川という。
今回は、地図から分かる地下河川の秘密に迫る。
地下の都市伝説の権威・秋庭俊先生なら、たぶん「地下河川」ってだけで興奮してしまうかもしれないが、今夜の話は、陰謀も、守秘義務も、まったく関係ない、のほほんとした余談である。
ここまで堅めの話が多かったので、ちょっと肩の力を抜いて、読んでもらいたい。秋庭本も一度しまって、いつも使う地図を手にとってみよう。
この案内板は、文京区が設置したもの。旧藍染川沿いの道路の塀に掲げられているのだけど、この塀自体が、「あいぞめパーキング」という駐車場の塀なのだ。根津藍染町という町名は、今はないが、この辺には、「藍染」という名前が残った施設や町会がある。
旧藍染川は、不忍池のある上野恩賜公園の北側からスタートして、文京区と台東区の区界を北上し、途中では「藍染大通」なんて通りを渡り、最初に掲載した“へび道”を通り、昔ながらの商店街が続く「よみせ通」を進む。上流部では、「谷田川通」が今も残っている。
この川は、もともと石神井川の流れだった。
石神井川は、現在はJR王子駅の下を抜けて、隅田川に注いでいる。でも、かつては、現在の川筋ではなく、谷田川という支流に注いでいて、文京区と台東区の境を流れ、不忍池に注ぎ、さらに、湯島、万世橋と流れ、昭和通りでお玉が池跡を南に流れ、中央区日本橋小舟町あたりで東京湾に注いでいたという。
谷田川の上流部は、「谷戸川」「境川」と呼ばれ、下流の千駄木~根津~不忍池までが藍染川と呼ばれていた。
この藍染川、今では姿を見ることができないが、実は、今でも存在する。
どこに?
地下なのである。
関東大震災後に暗渠化され、先に紹介したような地名や通りの名前として残っている。区界にある通りには、暗渠の藍染川が今でも流れている。でも、それは、法律的な位置づけが、「河川」ではなく、「下水道」なのである。
東京には、こうやって、かつて流れていた川が、都市化の進展により、川の上に蓋をかぶして、「暗渠」にし、結果的に「下水道」になってしまった地下河川がたくさんある。それを、今、資料を使わずに探し出すのは至難の業だが、区界や町の境などに、川の面影を探し出すことができる。川は消えても、今でも地下には「下水道」が残っているケースも、結構多いと思う。
もう一つ、事例を紹介しよう。
お手元の地図で、早稲田周辺を開けてみてもらいたい。都電荒川線の北に神田川が流れている。かぐや姫の名曲でお馴染みの、あの神田川である。ここに、豊島区と新宿区の区界がある。
緩やかなカーブで流れる神田川の南北に、凸凹の区界がある。神田川を挟んで、双方の区が飛び地になっている。この凸凹の区界が、かつての神田川の流れだ。このケースでは、地下河川ではなく、神田川が今も地上を流れている。
意外と見つかるものだね。
次は、少し難しい。
地図の新宿駅周辺を開けてみてもらいたい。甲州街道の南側である。新宿区と渋谷区の区界がある。大江戸線の新宿駅も、タカシマヤタイムズスクエアも、渋谷区にあるってことが分かると思う。
注目するのは、JR新宿駅の構内である。甲州街道の南側、駅の西側から区界が駅構内をまたいで、駅の新南口あたりへと続いている。
どう?何か気にならない?
この新宿駅構内の区界は、京王線のルートの延長線上にあるように見えないだろうか?
あっ、慌てないでね。京王線の「未供与」のトンネル…なんて言うと、秋庭系。
右の画像を見ていただきたい。この道路の下を、京王線が走っていて、ちょうど撮影している箇所くらいから、カーブして、新宿駅へと入っていく。
京王線は、新宿駅から地下線を通り、緩やかなカーブを描きながら、笹塚まで走る。トンネルは、こうやって道路になっている箇所と、公園のように散策路になっている箇所もある。毎朝、この路線を使うと、満員電車に揺られながら、甲州街道は一直線に延びているのに、京王線のトンネルはどうして真っ直ぐ走らないんだろうって思う。
まあ、鉄道に詳しい人なら、お分かりかと思う。この通りには、かつて玉川上水が流れていた。通りの新宿駅よりには、今でも葵橋の跡が残っている。すぐ近くに京王線の通風口があり、電車が通るたびに、その音が響いている。
玉川上水は、羽村取水堰から武蔵野を縦断して、ここまで流れてきて、さらに新宿御苑を通って、四谷大木戸まで流れていた。現在の新宿副都心ができる前には、淀橋浄水場があって、玉川上水を通して、水が浄水場に送られていた。
少なくとも明治時代までは、この通りには開渠の玉川上水が流れ、新宿駅の構内を潜り、新宿御苑の北側を流れて、四ツ谷に注いでいた。
さて、地図に戻ってもらいたい。JR新宿駅構内の新宿区と渋谷区の区界は、玉川上水の流路の跡だと考えることができる。
ところで、この玉川上水は、今、消えてしまったのだろうか?
淀橋浄水場が廃止された今、上水を都心送り届ける役割はなくなった。現在では、羽村から小平までを上水道の役目を果たしているだけで、それ以降は、下水の高度処理水が流れている。その水さえ、途中で神田川に流れてしまっている。では、京王線が今走っている場所から都心にかけては?
どうやら、地下に今でも暗渠の玉川上水が残されているらしいのだ。
現在、水はほとんど流れていない。でも、人が行き来できるほどのトンネルに、今も玉川上水は存在する。おそらく、京王線に平行して流れてきた後、新宿区と渋谷区の区界に限りなく近いところを、暗渠になって流れている。その先は、想像でしかないが、甲州街道の南側を通り、かつて開渠で流れていた時代とほとんど同じルートを通り、四谷大木戸まで続いている。
四谷大木戸には、今でも玉川上水のポンプ施設がひっそりと残されている。
この通りは、新宿御苑の北側にある区道。どうやら、この下に、暗渠の玉川上水が流れているらしい。
地元・新宿区では、環境省と共同で、かつての玉川上水を偲ぶ流れを復活させようというプロジェクトが、地元の区民も巻き込んで、進んでいるようだ。「偲ぶ」というのがポイントで、現在、新宿御苑内にある自由散策路のところに、親水公園っぽい水の流れを復活させる。
本家本元の玉川上水は、暗渠になる前、かなり本格的な流れで、上水とはいいながら、泳げないと溺れそうな立派な川だった。まさか、現代にそんな本格的な流れを取り戻そうとしても、水がないし、仮に取り戻しても、そんな川、危ない(笑)そこで、かつてはここを流れていたよっていう、癒しや教育効果みたいなのを狙って、ささやかなミニ玉川上水を実現しようというわけだ。
玉川上水の四谷大木戸から都心に向けては、江戸時代にすでに暗渠で、皇居や溜池方面に上水を供給していたらしい。
こんな風に地図で「地下河川」「河川跡」探しをやってみると、結構楽しいものだ。
東京にとって、川は、切っても切れないアイテムだ。正確に言えば、江戸と川は、であろうか。人々の生活は、川の存在を無視して成立はしない。古代から、人は川の近くに住居を置き、古くは田畑を営み、近代以降は工場を営んだ。東京の川も同じことで、本来そこに住む人たちは、川の恩恵で生活を営んだはずだった。ところが、大都市東京がふくれあがると共に、川は、「どぶ川」へと姿を変え、そのうち蓋をして暗渠になる。
特に、昭和の高度経済成長期には、水質の汚染が深刻で、河川の流域住民は、こぞって川の暗渠化を、国や都に求めたのだ。
今、東京の地下には、そうやって「下水」になってしまった「地下河川」がたくさんある。
ふとしたきっかけで、その存在に気づく。
一番の手がかりは、地図だと思う。
今夜は、こんな風に、ちょっと横道にそれてみた。東京の地下は、電車だけじゃないってことだ。
次は、再び地下鉄に乗ろう。東京メトロ有楽町線の沿線には、何とも無駄な空間が多い。なんじゃこりゃ、誰が掘ったんだって。有事には戦車が走るだとか、何だか物騒な都市伝説が囁かれる有楽町線は、そういうオカルト以前に、地下の名所の多い路線かもしれない。
次回の【秋庭系東京地下物語2007】は、池袋駅に停まります。
(関連する記事)
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(記事の参考にした書籍)
【秋庭系東京地下物語2007】
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