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2006年10月22日 (日)

東京の地下鉄は戦前にすでに作られていたという噂は本当か?30

秋庭俊さんの書籍を読んでいらっしゃる方は、現代でも改描があると思いこんでいる人は多いと思う。

まずは、『帝都東京・隠された地下網の秘密』(新潮文庫)から。秋庭さんの地下の陰謀説は、ここから始まっている。

だが、千代田線の線路図の色が入れ換えられていた。設計士のプライドを叩き割るような行為だった。このような強権的なことをするのは政府以外に考えられず、政府にとっては地下鉄が交差していてはならないと知った。それと同じ作為が国土地理院の原図にあった。このとき、改描を思い出した。(P68)

地図を書き換える、というのは、意外に昔から行われている。明治時代以降、例えば、東京の地図にある宮城(皇居)は、真っ白だった。そのほかに、横須賀鎮守府(軍港)を覆う地帯は、地図から存在が消されていた。三浦半島が丸々消されている地図もある。当時は、呉、舞鶴、佐世保、長崎といった軍港のある地域、津軽海峡、関門海峡、豊予海峡、対馬海峡など軍事上重要な地域の周辺で、こうした改描が行われた。ただ、これは、いわゆる戦時改描とは別ものである。

1937年(昭和12年)、日中戦争勃発直前の6月、参謀本部は、一般販売のものに限り、国土防衛上、秘密保持を要する土地・建物を地図上で偽装改描する方針を固め、9月に参謀総長命令の改描を指示した。これが、いわゆる「戦時改描」である。

1939年(昭和14年)からは、新聞雑誌その他の出版物に掲載する民間の地図にも、陸海軍の「検閲」を行った。1941年(昭和16年)、地形図が全面発売中止となった。秋庭さんは、地図が発禁になったように書いているが、それは誤解。「地形図」である。

さて、現代では、オイラたちの日本では、地図が改描されたり、検閲されることは考えられないけれど、例えば、タイの地図作製機関は軍隊なので、やはり地図が改描されていることがある。韓国では、5万分の1地形図とそれよりも大縮尺の地図には、国外への持ち出しが禁止されており、複製も禁止されている。

では、日本はどうだろうか?

その前に、下記の本を紹介したい。

『地図は嘘つきである』(マーク・モンモニア著、渡辺潤訳、晶文社)

この本で著者は、「地図で嘘をつくのは簡単だ。というより、地図はもともと嘘つきである」と述べている。「ひとつの地域についてのデータからは何種類もの地図が作成可能である。1枚の地図は、その中のたったひとつにすぎない」

地図が嘘をつくのは、どんなケースがあるのだろうか。

第1は、地図作成上の不注意。

1つの地図から別のものへと情報が転用された場合には、脱落や取り違えが特に起こりやすい。大きな縮尺の基本地図から小さな縮尺の派生地図に適切に情報を移しかえるのは、簡単な仕事ではない。

著者はこう述べて、ニューヨーク州シラキュース市が発行した街路図に、地図にしかない通りが2本あるというエピソードを紹介している。

これは不作為の間違いだが、わざとする間違いもある。

これもアメリカの話だが、地図発行者が著作権保護情報の盗みに対する防止策として、「おとりの道路」を加筆することがあったらしい。おとりの道路は、普通は分かりにくくされていて、地図の利用者を混乱させたり、怒らせたりしないように、邪魔にならないところに置かれるそうだ。

1979年のミシガン州高速道路地図には、2つの架空の町が記述された。この地図の作製者が、ミシガン大学フットボールチームのファンだったために、チームのニックネームを架空の町として表してしまったらしい。

つまり、地図は嘘をつく。

例えば、企業の広告に使われる地図。不動産屋が物件の地図を示すとき、○○駅下車としながら、実際に歩くよりもかなり近く感じるような地図を描く。歩いてみたら、意外に遠かったなんてこと、結構あるんじゃないか。

どこで聞いたか忘れたけど、地下鉄の路線図、改描があるって。おそらく、秋庭さんがそれっぽいことを書いて、読者が真に受けているんだと思う。

でも、改描かどうかは別として、地下鉄の路線図は嘘をついている。

例えば、東京メトロのホームページにあった路線図を見てみよう。

「network2.pdf」をダウンロード

よーく見て欲しい。都心部より郊外の方が駅間距離が短いと思わない?東西線の門前仲町から千葉方面は、どうしてこんなに駅間が短いのか。これは、サイトの画像だけじゃなくて、駅の切符売り場の上に掲げられた路線図も同じ。どんな意図があるか、よーく考えてみよう。

都営地下鉄のこんな路線図を見たことあるだろうか。

Subway おかしいよね、この路線図。大江戸線は、こんな風に丸くは走っていない。都営線を浮かび上がらせるために、他の路線がいびつに見える。この図もやはり、郊外の路線は、駅間距離が異様に短い。現実の路線図とは似ても似つかない。でも、使うお客さんが、これに文句を言うことはあまりなくて、当たり前のように使っている。

つまり、地図は嘘をつくし、それを使う人も、それを受け入れている。

メルカトル法で作られた世界地図を、よく小学校の社会科の時間で見た。経緯線がどこも直交しているから、高緯度地方がやたらと拡大されてしまう。例えば、現在のロシアなんて、とてつもなくデカくなる。オイラが小学生の頃は東西冷戦の時期で、社会主義国・ソ連がやたらとでっかく表現されてしまうことになった。こうして、メルカトル法が政治的に利用されることもあった。

最初に戻ろう。

だが、国土地理院の原図が誤っていると、当の地理院が認めることになった。地理院の地図が誤っているのは、私には一つの驚きだった。(P68)

オイラも、秋庭さんの本を読んで驚いた。いつも歩いている通路の壁の向こう側が丸ノ内線だったなんて、想像すらできなかったからだ。

だが、これは「誤差」というわけにはいかなかった。営団のデータが正しいにもかかわらず、コンピューターのやりとりで誤差を生じた結果、丸ノ内線のルートがぴったりと道路のカーブに合ったというのは、どう考えても話がうますぎる。(P69)

よーく考えてほしい。国土地理院が丸ノ内線のルートを誤って地図に落としたのは、いつのことだったのだろうか。丸ノ内線が通ったときか、千代田線が通ったときか。少なくとも、時代背景から言って、コンピューターのファイルのやりとりは存在しないと思う。人間が生の紙のデータをもとに、ここにルートを書き入れたのだと思う。この点は、国土地理院の広報担当が誤解している。

では、国際地学協会の主任は、どうだろうか。秋庭さんに問われ、「それは遺産ですな」と答えている。

これは、真実を述べた台詞だと思う。「遺産」とは、国土地理院が最初に丸ノ内線と千代田線の経路を書き加えるとき、間違ったルートを使った。この2路線が交差しているかいないかが問題になったのは、その真ん中に南北線が開通したからだ。それまでの間は、この間違いに気づくことができないし、気づく必要もなかった。地図の改訂のたびに、地図は前の「遺産」を引き継いだ。じゃあ、間違ったら書き直せばいいという話になるが、もともと地図は、航空写真を正確に反映したものではなく、正確に反映していなければならないわけでもないのだ。

オイラは、地図については専門外だが、いろいろと調べてみて、これは改描ではないと思っている。国土地理院の担当者の人為ミスである可能性が高い。

秋庭さんは、GHQの地図や戦前の地図などに、国民に隠された地下網を記してある、それが改描だと主張している。でも、改描というのは、そもそも、何かを見せるための手法ではなくて、何かを隠すための手法なのだ。

例えば、ここに浄水場がある。軍事上重要な施設だから、桑畑に書き換える。そこに浄水場があるかどうかは、その改描地図を見ても分からない。三浦半島には大きな軍港がある。だから、半島ごと消してしまう。その改描地図を見ても、三浦半島の存在すら分からない。

そう。分かっちゃいけないんだ。

もしも、一般に市販されている地図に、地下網を表す記号や印が隠されているとしたら、それは、改描とはまったく逆のことをやっていることになる。地下にあるものをわざわざ地図に表す必要なんてない。見えないんだから、無視すればいいのだ。例えば、もしもオイラが戦争中に地図を描く立場になって、「地下鉄の存在を消せ」と言われたら、地下鉄の出入り口や、地上部分を消してしまうだろう。でも、せっかく消した地下ルートをわざわざ目に見えて分かるように地上に記号を入れたりはしない。敵に地図が渡ったら、バレバレだからだ。例えば、存在しない地下ルートを書き入れて、敵を混乱させることは考えるかもしれない。

なので、当然、一般に市販されている改描地図以外に、軍の関係者だけが使う正確な地図が存在する。それがないと、困っちゃうでしょ。改描地図には、自分たちが守るべき拠点が書いていないんだから。地図には、つまり、2種類ある。偽物と本物。

秋庭さんは、「改描」の意味を根本的に誤解している。

でも、オイラは、秋庭さんが『帝都東京・隠された地下網の秘密』で指摘した、丸ノ内線と千代田線のルートの違い、しかも、間違っていたのは、国土地理院だったという事実は、大いに驚かされたし、大スクープだと思う。でも、それは、間違っていたというスクープであって、「改描」ではない。地図は嘘をつく。それが、戦後民主主義の日本において、民間企業ではなくて、国土地理院がやってしまったことは、いくら地下鉄のルートごときとはいえ、なかなか傑作だと思う。だからこそ、国際地学協会の主任は、「同じ言葉を繰り返し、微笑を浮かべた」のだ。

最後に、『地図は嘘つきである』から、「抜け目ない地図のための11の原則」というのを紹介しておこう。

1.選択は抜け目なくやれ・・・見せたくないものは出すな。

2.枠組みの戦略・・・好ましくないものを併記することは避けよ。

3.プラスのものは力説せよ・・・地図にとって都合のよいデータとテーマを選べ。

4.失敗に備えて、言い訳を用意しておけ・・・もっともらしい弁解が必要。

5.マイナスのものはできるだけ小さく・・・マイナスのものをすべて削除することができない場合は、少なくとも強調してしまわないように気をつける。

6.ディテールをごまかせ・・・結局、詳細な地図は技術的に正確な地図だということになっている。

7.紙で説得しろ・・・不都合な細部をカムフラージュするためには、極めて単純にするか、無関係なものを細々書き込む。

8.空中写真や歴史地図で気をそらそう。

9.概略化は創造的にやれ・・・細部の省略と強調は、ポイントを明確にさせるためにやること。

10.エレガントな魅力を付加させる。

11.失敗したときは、何であれ、賄賂を考えろ。

なかなか、おもしろいでしょ。これは著者のジョークのようなものだけれど、地図の本質をついていると思う。オイラたちは、こんな平和な社会だから、改描なんてのも縁遠くて、地図に意図がないと思いこんでいる。でも、地図は、そもそも、ありとあらゆる意図でいっぱいだ。地図を眺めていると、そんな意図が伝わってくるから、秋庭さんのように地下マニアには、地下道が隠されているように勘違いする人もいる。皆さんの地図には、どんな意図が隠されているのだろうか。ぜひ今夜は、自分の持っている地図を眺めて、そらめいていただきたい。オイラのほうは、「いろいろ、あるんだよ」とでも言うよりほかない。

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『新説東京地下要塞-隠された巨大地下ネットワークの真実-』を読む

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『写真と地図で読む!帝都東京・地下の秘密』(洋泉社MOOK)を読んでみた。

『大東京の地下99の謎』(秋庭俊著、二見文庫)を読む

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